中等部からマネージャーをしていた私は、高等部に上がっても、普通に男子テニス部へ入ることを許してもらった。そんな私の境遇を見た女の子たちは、部員の誰かと付き合っているのでは?なんて憶測をするときがある。
そういう女の子たちにとって、残念ながら、なのか、幸いなことに、なのかはわからないけれど。とりあえず、そんなことは一切ない。たしかに、みんなカッコイイし、性格も悪くはないと思う。・・・・・・そう、あくまで“悪くはない”。みんな、かなり個性的なんだよね・・・・・・。だから、恋愛対象に見たこともないし、向こうもないと思う。
つまり、私の入部が認められたのは、私の働きを評価してもらったため、だろう。・・・・・・私としては、その方が嬉しい。高等部でも頑張ろうって思える。

あんなカッコイイ人たちに囲まれておいて勿体ない!!って意見はよくわかる。私だって、一応は年頃の女の子のつもりだし。恋愛だってしたいなぁーって思う。
と言うか、中等部のときには、好きな人がいた。・・・・・・ただし、その相手は他の部活の子だったけど。ちなみに、その相手は同い年のサッカー部の子。で、その子はサッカー部の女子マネージャーと付き合っていた。それを知って、私は諦めたわけだけど・・・・・・やっぱり、部員とマネージャーで付き合うっていうのは、一般的に見て少なくないのかもしれない。

それでも、私たちの間では、そういう関係になるとは思えなかった。・・・・・・これは私のレベルが低いから??と思いかけて、そんな悲しい推測はしたくない!と頭を振った。でも、テニス部員はみんな本当にカッコイイ人たちばかりだし・・・・・・。
例のサッカー部の男子がカッコよくないというわけじゃない。むしろ、カッコイイと思うし、その彼女さんもすごく可愛い。だけど、そういうレベルじゃないんだよね、うちの部は・・・・・・。
いや、だからって、そのサッカー部の男子と私でも釣り合ったか、と考えれば、答えは当然“否”。やっぱり、その彼女さんの方がお似合いに決まってる!

そういえば、あの2人も内部進学のはず。たぶん、今でも続いているんだろうなぁー。微笑ましいなぁ〜、と思って、ふとサッカー部が活動しているグラウンドの方へと目を遣った。



「高等部からは、サッカー部の方に入りたかったのか、?」



後ろから、かなり嫌みっぽく聞こえたのは・・・・・・同い年の日吉くんの声だった。
彼もすごくカッコイイし、クールだし、頭も良くて、スポーツもできる。だから、当然人気があるけど・・・・・・。こんな風に結構意地悪と言うか、素直じゃないと言うか。もちろん、本当は優しい人なんだってわかってる。でも最初は、すごく近寄り難い人だと思ったよ・・・・・・。
なんて過去を思い出しながら、私は少し苦笑いをしてから、返事をした。



「そんなわけないでしょ。私はテニスが大好きなんだから。それに、中等部からお世話になってるメンバーだしね。高等部でも少しは皆さんの役に立ちたい、って思いながら頑張ってるつもりよ?」

「・・・・・・謙遜するな。は少しなんかじゃなく、充分俺たちのために頑張ってくれている。」

「そっか、ありがと。」



私がニッコリ返すと、日吉くんがぷいと顔を逸らした。・・・・・・ほら、素直じゃない。
たしかに、日吉くんは言い方がきついこともあるけど、こっちが普通に返せば、意外と大人しい対応をしてくれる。今だって、私のことをちゃんと褒めてくれたし。
・・・・・・って、もしかして。私ってば、日吉くんの扱い方が上手い?!なんて失礼なことを考えて、笑いそうになる。それを誤魔化すためにも、私はこの話を終わらせることにした。



「それじゃ、部活に戻ろっか!」

「あぁ・・・・・・。」



そのとき、グラウンドの方から視線を感じて、もう一度振り返ってみたけど・・・・・・気のせいだったかな?

と思っていたけど、気のせいではなかった。その日もあと数回、また別の日も同じように視線を感じることがあった。
誰だろうと思っていると、その正体は驚くことに、例のサッカー部の彼だった。徐々に目の合う回数が増えて、次には手を振り合うようになった。
そして、ある日。突然昼休みに呼ばれ、最終的に告白をしてもらった。



「・・・・・・彼女さんは??」

「え?・・・・・・あぁ、中等部のときの?アイツとは高等部に入ってすぐに別れちゃったよ。アイツ、外部を受験しちゃったからさ。なかなか会えなくて・・・・・・。」

「そうだったんだ・・・・・・。ごめん、余計なこと聞いて。」

「いいって。もう吹っ切れたからこそ、今はさんに告白してるんだから。」

「そっか。・・・・・・え〜っと。その、ありがとう。すごく嬉しい。でも・・・・・・ごめんなさい。」

「・・・・・・だよな。あんなメンバーに囲まれて部活やってれば、そっちに惚れるのが当然だよな。」

「え?!い、いや・・・・・・。そ、そういうわけじゃないんだけど。・・・・・・むしろ、中等部のときは好きだったんだよ?でも、その頃、もう彼女さんがいたみたいだから。」

「マジで?うわー、それ聞けただけでもここに呼んだ甲斐があったわ。ごめんな、時間取らせちゃって。」

「ううん!私も嬉しかったから、ありがとう。もし良かったら、これからも友達として仲良くしてね?」

「うん、こちらこそ。それじゃ!」

「またね。」



本当にこれから仲良くできるかはわからない。一応は振った振られたの関係なのだから、しばらくは気まずいかもしれない。でも、今のところはスッキリと別れることができてよかった。
・・・・・・それよりも。私にとっては、別のことの方が問題だった。自分でも、そうなんじゃないか、って少し気付いていた。だけど、そうじゃないって強く言い聞かせ、どうにか抑えてきていた。それが、こうやって告白してもらったことで、“恋愛のスイッチ”みたいなものがオン状態になってしまい・・・・・・。

やっぱり、私・・・・・・、日吉くんのことが好きだ。

どれだけ冷たい言い方をされても、本当はいい人だから、なんて思えるのは、日吉くんのことが好きだからだ。
喋っていて、自然と笑顔が多くなるのは、日吉くんのことが好きだからだ。

あ〜ぁ。せっかく、我慢してきたのに。マネージャー業に支障をきたしちゃダメだからって、見て見ぬ振りをしてきたのに。ここにきて、それを意識するようになってしまった。

部活が始まって、どんな表情をしていいかもわからなくなって、少し日吉くんを避けるように過ごした。そして、この原因を作った彼が見えるグラウンドをちらりと見る。
そこには、さっきの失恋を気にもしていないかのように、楽しそうに走っている彼の姿があった。・・・・・・やっぱり、サッカーが好きなんだろうな。昔は、あの姿がすごくキラキラしているように見えたものだ。だけど・・・・・・。今は違う。今は、テニスコートにいる日吉くんの方がそんな風に見えるんだ。
でも、今日はその姿を直視できそうもない。・・・・・・そう考えると、気分が落ち込んでしまうのは、相当なものだろう。自分で自分が情けなくなって、ため息を吐いた。



「はぁー・・・・・・。」

?」

「うわっ!!!ビ、ビックリしたー・・・・・・。」

「可愛くない反応だな。」

「私にそういう期待しないでくれる?」

「そうだな。俺が悪かった。」



そう言って、日吉くんはいつも通り、からかうようにニヤリと笑った。
普段の私なら。もう、とか言いながらも、それでどうかしたの?と明るく聞き返せただろう。
でも、意識し始めた私には、日吉くんが私に女の子らしいリアクションを期待してくれない事実がすごく悲しくて。今にも泣き出してしまいそうで・・・・・・。それを隠すために、怒ったように返してしまった。



「それで、何か用?」

「・・・・・・用と言うわけではないが。、お前さっきから様子がおかしくないか?」

「・・・・・・・・・・・・どうして?」

「今、間があったということは、自分でも自覚しているんだろう?」

「・・・・・・。」



動揺してしまっている私は、やけに勘のいい日吉くんに言い返すことなどできるわけがなかった。



「部活が始まってから、俺を避けているように感じた。それに、さっきはため息を吐いていただろう?何かあったのか?それとも、俺が何かしたのか?」

「・・・・・・。」

「あるいは・・・・・・アイツが関係あるのか?」

「アイツって・・・・・・?」

「あそこにいる、サッカー部のアイツだ。」

「!!」



私の様子が変だという本当の原因は、むしろ日吉くん自身だ。でも、彼もきっかけではある。だから、思わず驚いて、それが顔に出てしまった。



「・・・・・・やっぱり、何かあったんだな。」

「ち、違う。何も無いよ。」

「何も無いわけがないだろう。ため息を吐いたときもグラウンドを見ていたし、最近アイツとは親しくしていたようだしな。それに・・・・・・。」



言い淀んだ日吉くんは、私から視線を逸らした。でも、すぐに戻して、今度はばっちりと目を合わせた。その目から逃れたいような気もしたけど、あまりに強い視線で、私もじっと見返すことになった。



「それに、中等部のとき、アイツのことが好きだったんだろう?」

「!?・・・・・・どうして、それを?」

「見ていればわかる。」

「・・・・・・嘘。私、そんなにあからさまじゃなかったよ。だって、仲の良い友達だって気付いてなかったもん。・・・・・・それなのに、部活が同じだけの日吉くんにわかるわけがないじゃない。」

「お前にとってはそうでも、俺にとってはそれだけじゃなかったんだ。」

「どういうこと??」

「わからないのか?」

「うん。」



私が即答した様を見て、日吉くんは呆れたように軽くため息を吐いた。
でも、本当は言いにくかっただけなんだろう。日吉くんの次の言葉を聞いて、そう理解した。



「俺が中等部のときからのことを好きだったからだ。だから、伊達にお前のことを見ていない。それで、わからないわけがないだろう?」



だけど、その割に日吉くんははっきりとそう言ってくれた。それ故に、少し信じ難かった。



「・・・・・・本当に?」

「当たり前だ。・・・・・・俺に興味が無いであろうお前に、こんな話をするつもりはなかったが。それ以上に、お前がそうやって何かに悩んでいる姿をもう見ていられなかったんだ。今でも俺はのことが好きだから。」



胸がキュンとした。さっき、サッカー部の彼に告白されたときも嬉しかった。でも、それとは全然違う。自分の好きな人に好き、って言ってもらえることが、こんなにも喜ばしいことだったなんて・・・・・・。



「私も!私も、今は日吉くんのことが好きっ!」



そんな興奮した気持ちに押されて、部活中だというのに、気付けばそう口走っていた。幸い、みんなは部活に励んでいて、私たちの会話は聞こえていなかったようだけど。
それでも、部活中だということに変わりはない。日吉くんに少し注意されかけた。・・・・・・まぁ、尤もだよね。



「な・・・・・・っ!お前!!・・・・・・まぁ、いい。それで。それは、友達として、なんて言うんじゃないだろうな?」

「もちろんだよ!」



それに比べて、私は未だ興奮が収まらず。次も満面の笑みで、そんな言葉を返してしまった。そのおかげで、日吉くんに信じてはもらえたみたいだけど・・・・・・。日吉くんは至って冷静だった。



「じゃあ、さっき、ため息を吐いていたのは?本当にアイツは関係していないのか?」

「・・・・・・あぁ、それ、ね。それは――。」



今日の昼休みの出来事、今までの私の思い、そして今の私の気持ち。それらを説明すると、日吉くんがまた呆れた顔でため息を吐いた。



「お前・・・・・・自分自身のことをよくわかってないようだな。」

「え、そうなるの??」

「そうだろう?お前が誰かを特別に想ったとしても、それでマネージャーの仕事を不平等にするとは思えない。」

「か、買い被り過ぎだよ。私だって、贔屓ぐらいすると思うけど?」

「それはない。の気持ちを知った今、俺としてはそうしてほしいぐらいだが・・・・・・。残念ながら、絶対にそんなことはしない。」

「そうかなー・・・・・・?」

「言っただろう?俺は伊達にお前のことを見ていない。だから、わかる。」



私の行動なんだから、私自身が1番知ってるはずなのに。私じゃない日吉くんが、自信満々にそう言ってのけた。
でも、その中に、私を喜ばせるような言葉がいくつも入っているから。何となく、納得させられてしまった。

日吉くんは、こんなことで嘘をつくような人じゃない。だからこそ、その大きな喜びをダイレクトに感じてしまう。と同時に、本当に信じちゃっていいの?!と思わなくもない。
だけど、この間、サッカー部に入りたかったのか?なんて聞かれたとき、グラウンドでは、他の部だって活動していた。それでも、サッカー部を見ていたと言い当てれたのは、中等部のときに私の好きな人がサッカー部にいたと知っていたから、ってこと?
これも確かな証拠というわけじゃないけれど、少しでも可能性を強められて。私は、また嬉しくなってしまった。













 

5月は更新ができなかったので、早く書けそうなキャラを・・・と思って書いたのが、日吉夢でした。皆様の思い描く日吉くんではないかも知れませんが、やはり私の中ではキャラがすごく固まっている人なので。すごく書きやすいんですね。だから、結構スラスラと進められました。
それ故に、拘りすぎたり、長くなったりして、完成は遅いんですけど・・・(←結局/汗)。

今回のテーマは、「前から好きだった」かつ「でも、それを素直に言えない」でした。正に、これこそ!ツンデレの真骨頂!!じゃないですか?!(黙れ)乙女ゲーとかで、そういうキャラがいると、ついキュンキュンしちゃいます♪(笑)
ただ、やはり私では上手く表現できなかったので、満足はできませんでした・・・(苦笑)。

('10/06/22)